これをゆでてマリネしたものをお弁当箱から食べていると、ビーツを知らない人たちはギョッと驚く。
「ちょっと、何を食べているの? 真っ赤なジェリー?」
たしかにね。こんなきれいな赤色の野菜なんて、そう滅多にあるものではないものね。このビーツは、ほら、ロシアの伝統的料理ボルシチやポーランドのグーラッシュを赤く染める、その当の根菜でありまする。ロシアや東欧の料理はビーツがなくてははじまらないとも聞く。ドストエフスキーの小説に出てくるような極貧農民にとっては、固い土地でも育ち、貧しい人に不足しがちな糖分を多く含むビーツは、救世フードであったに違いない。
今はどうか知らないが、私が日本にいたころは、新鮮なビーツは手に入らなかった。缶詰がせいぜいだった。カナダではスーパーはもとより、日保ちがよいビーツはコーナー・ストアでも入手できる。
スーパーといえば、あるときレジ係の人から唐突にも、「あなた、この葉っぱをどうしている?」と、尋ねられたことがある。手には私が買おうとしていたビーツが握られている。「捨てますね」と私が言うと、彼女は向こうにいた夫をチラと見て、「賢い主婦なら、葉っぱは野菜スープやシチューに入れなさい」と私に言った。見ず知らずの人から「賢くない主婦」であると示唆されるだけでもカルチャー・ショックであったが、それまで邪魔者扱いしてきた葉っぱが食べられると知ったのも、それに輪をかけるようなショックであった。
さて、ビーツを茹でるときは、どの料理本にも書かれてあるように丸ごと茹でるのがいい。そうすると、ブリーディング(まるでホラー映画の登場人物のように両手が真っ赤になる状態)が避けられるし、皮もスルスルとむける。マリネ液がよく染み込むよう、ごくごく薄くスライスしたら、オリーブオイルとワインビネガー、オレンジジュース(ストレート、100%のものを使ってね)を混ぜたマリネ液につけこもう。よく洗ったベビースピナッチのうえに、真っ赤なビーツ、クランベリーなどを乗せ、マリネ液をかけてサラダにすると、味と栄養は去ることながら、色合いも見た目も申し分ない。
あの、フルーツを食べているようなビーツの食感は筆舌に尽くしがたい。甘くて柔らかく、すっぱいビネガーと組み合わせると甘さに奥行きが出て、何だかすばらしく特別のものを食べている、特別の人になったような気がするのだ。
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